「ごめんな、また呼び出されたんだって?俺が悪いんだよな」



「・・・別に。それに今日は助けてくれる人もいたし」



「助けてくれる?それって男?まさか、男じゃないよな?」



二人の声が廊下まで、聞こえるくらい、静寂に包まれていた。


僕はその二人をただ、黙って見ていることしかできない。



「だったら?助けてくれない恭に、そんなこと関係ないよね?」



今まで背を向けていた先輩が、高梨先輩へと向き直る。


さすがにこの場所からは分からないけれど、先輩が泣いているように感じられて、


それがすごく僕の胸を苦しくさせた。


僕なら、先輩を泣かせることなんてしないのに。



「ごめん、本当にごめん。許してほしい。俺が好きなのは本当に千尋だけなんだ」



先輩が泣いているようで苦しかった胸がもっと今度は激しく締め付けられるように痛い。


僕が、出来ないこと。



手を掴むだけでいっぱいいっぱいだった僕が出来ないことを高梨先輩は一瞬でやってのけた。

「こうやって、抱きしめるのも、千尋だけだから」



苦しい、辛い。どうして、千尋先輩はあの人のものなんだ。


ギリギリと胸が痛むし、やるせない。大事ならどうしてもっと大切にしてやらないんだ。



昨日は、ここまで激しい気持ちに駆られることなんてなかったのに、


今日は可愛らしい表情を見てしまって、一緒に帰れると思っていたから、それを邪魔された思いもあって余計に高梨先輩への嫉妬が大きい。



僕はそれを顔に出していたのかもしれない。


そして、あたかもそれを見越していたかのように教室の隙間から見る僕に挑発的な笑みを高梨先輩は浮かべていた。


まるで、お前には渡さないと言わんばかりに。