「ただいま」

「おかえり」


花本美咲は僕に背を向けている。


「...佐崎くん」

「何?」

「...私ね、私...」


彼女は口篭もり、やがて僕の方を向いていった。


「消えようかなって思います!」


彼女の言葉に、僕は戸惑う。


「そろそろ成仏しないとねぇ。ずーっと佐崎くんにお世話になるわけにもいかないし」

「別に、世話なんてしてないよ」

「ほら、男女が一部屋に一緒って危なくなーい?」


彼女はおどけて見せる。


「あのね、私、佐崎くんの近くでしかこの世にいられないみたいなの。だからね、私を私の家に連れていってくれないかな?」


それが、自分の家族を彼女が見る最後なのだと、確認しなくても分かった。


「うん。...分かった」

「ありがとう、佐崎くん」


彼女は微笑んだ。

僕は立ち上がって、彼女と共に部屋を出た。