「……へぇ」



遥香さんの放った一言に分かりやすく崩れたチヒロの笑顔。


けれど、チヒロはすぐにまた気持ち悪い笑みを浮かべてゆったりと口を開いた。



「充の居場所、知りたくないんですか?」


「……知りたいけど、今の状況でアナタ達の元へ行くほど私は馬鹿じゃないから」


「……ハッ。そうですね。アナタは聡明な人だ。不利な状況に置かれているということを十分に理解している」


「…………」


「でもね、鳳皇にとったら危機的状況かもしれないですけど、俺達にとったら絶好のチャンスなんですよ」



──それもアナタはちゃんと分かってるでしょう?



そう言ったチヒロは、まるでこの状況になるのを知っていたかの様に次の行動を起こした。



「……っ、遥香さ──」



チヒロの背後から走ってきた数人の男達。


普通に拘束されると思っていたあたしは、必死に抵抗した。


けれど、そんな抵抗なんて薬の前では無いに等しい。



遥香さん……。



最後に捉えたのは、遥香さんが崩れ落ちていく姿。



助けなきゃ。


そう思うのに、瞼が勝手に閉じていく。





「アンタを捕らえるにはこれぐらいしないとな」





──薄れていく意識の中、微かに耳に届いたのは愉快げなチヒロの声だった。