...





「買うものはこれだけか?」


「…ん。」


「よし、じゃあ帰ろう。それにしても…買い過ぎじゃないかね、これ。」



結局工藤は黒瀬の買い込んだ食料と冬服、それとなぜか大量のハードディスクと新しいタブレットの荷物持ちと化していた。


一体、俺がいなかったらどうするつもりだったんだ。


重い荷物を抱えながらまだまだ多い人波に呑まれないよう、二人は帰路につく。


その途中、工藤は気が付いた。


黒瀬の腰を掴んで引き寄せる。



「んなっ!!?何…!」


「しっ、黙って。…つけられてる」




工藤の言葉に目を丸くした黒瀬は、ばっと後ろを振り返ろうとする。


それを慌てて手でおさえ、工藤は小声でさとす。




「こら、後ろを向くな。このまま、俺の言う通りにするんだ。いいな」


「……」


「そのまま何事もなかったように歩くんだ。そこの角を曲がった全速力で走る」


「!?ちょっと待って、逃げるの!!?」


「当たり前だ!言っただろ、君の安全を守るのが俺の役目だ」


「そっちこそ!約束したじゃない!!もし私が襲われるようなことがあったら犯人を捕まえてって!!」


「だけど…!!」



しぶる工藤に、黒瀬は顔をぐっと近づけて言う。


まっすぐに目を見ながら。



「お願い。捕まえて」



「……」



その懇願するような瞳と声に、工藤は困った様にため息を付き、折れる。



「……分かったよ、」


「…ありがとう」


「別に。じゃあ、さっき言った通り次の曲がり角で捕まえる」



君を守りたい。言う通りに。


工藤の言葉に黒瀬は小さく頷いた。






角を曲がる。


人気がないその路地に、二人の後に続いて入る男が一人。


ニット帽をかぶり目立たない地味なパーカーを来た、人混みに紛れるにはもってこいの服装をした男。


彼が二人の後を追って路地入ろうとしたその時、



男の顎が突き上げられ、意識が飛ぶ。


その一瞬を狙い男は路地へ引き込まれ、壁にたたきつけられた。



「ガッ…!!?」


「…誰だ、貴様」



工藤の声に目を剥いたその男は、一気に抵抗し始める。


相当の訓練を受けているらしいその男は、工藤の腕を払い殴りかかる。


蹴りを入れ、懐から取り出したナイフで切りかかるが工藤は全て避けてしまう。


ナイフをはじき、そりゃあもう見事に華麗な身体さばきで男を倒してしまった。




工藤は男を地面に押さえつけ、再び問う。



「…誰だと聞いている、さっさと吐け」


「……ぐっ!!」





「どいてっ!!」


「うおっ!」



傍で一部始終を見ていた黒瀬が突然割って入る。


男の胸ぐらをつかみ、怒鳴った。



「あんた達は誰!?何が目的で私たちを狙うの!!?」


「く、黒瀬…」


「誰が親分なのよ!!?教えなさい!!!」



今までにない黒瀬の様子に、工藤はしばし呆然と二人を見つめていた。