…………と、いう超~~恥ずかしいやり取りを消せないまま、あたしは一夜を過ごした。
そのおかげで今日は寝坊。
しかも寝坊にプラスして――…。
昨日の土砂降りで濡れてしまったお守りが、鞄の革に触れていたせいで、黒く汚れてしまっていた。
それに今朝気付いて、どうにか汚れを落としたけど、乾かすまでは出来なかった。
だから今日は、ハンカチに包んで、ポケットに入れて来た。
「セーフ!」
教室に滑り込んだあたしに、なべっちが両手を広げて言った。
「し、死ぬかと思った…!……ゲホッ!肺痛ぁ…」
「1限、景山だったから危なかったよ~!また知枝里、雑用押し付けられちゃうとこだったー」
なべっちはどこか楽しそうに笑っている。
…いや、楽しいのだろう。
そうだろうそうだろう。
ハッピーなバレンタインを過ごした人は、きっと人生が楽しいのだろう。
「あれ?知枝里、ブレス外しちゃったの?」
「あ、ああ。2週間経ったけど彼氏出来なかったから。1500円もしたのに!」
「彼氏は出来なかったけど、告られたよね?」
「……………、」
あ゛ーーーーーーーー!!!
(外さずに付けてくれば良かった…)
「安川のこと、どうするの?」
なべっちが机に頬杖をついて、こちらを見据えた。
「…………うん」
鞄を机の上に置きながら、神妙な面持ちで頷いた。
昨日、気付いてしまった。
彼氏が欲しい、だけじゃダメだってこと。
好きな人と付き合わないと、きっとダメだってこと。
恐る恐るそれを伝えるとなべっちが言った。
「そんなのまだ分かんないじゃない。付き合って、好きになることもあると思う」
「え゛?」
またもや新しい恋愛論を聞かされ、目を丸くする。
「それにね、傷心を癒すことが出来るのは新しい恋だけだと思うのよ。だから、安堂くんのことは忘れて、安川のこと考えてみてもいいんじゃない?最初から付き合うとかじゃなくていいから、まずはお友達~とかでさ」
なべっちの言葉にぽかんとする。
もし、それがみんなに当てはまるなら―――……。