一瞬時が止まって、心臓も止まって、それからクレッシェンドで心臓が早く高く唸りだした。


「………………、え?」


白い息が、暗い空に昇っていく。

足を止めて、動きも止めて、あたし達は向き合っていた。


「なーんて、うそー」

「!!!」


安堂くんが無機質な声で言った。


「今、ちょっと本気にしたでしょ」

「し、してないし!」

「照れるなって」

「なんであたしが照れるのよ!!」


本当は、めちゃくちゃ心臓がドキドキしてる。

冷静に考えれば、簡単に見抜けるウソだけど、面と向かって、真っ直ぐに見つめられて言われたら、きっと誰だって信じてしまう。


「…ゆ、雪!雪降らないのかな!?」


ドキドキを隠すために、わざと大きな声で言った。

もう、あたしの家の前までやってきていた。


「………あっ」


空を見上げた安堂くんが、声を零した。


「えっ!?」


つられて、あたしも空を見上げた。

それと同時に、冷たい感触が唇に落ちてきた。


「―――………、え?」


触れた唇に、吐息を吐き出す。


(いま…、今…っ)


「あ、ほんとに雪」


その瞬間ちらほらと。

真っ暗な空から、神様の贈り物が落ちてきた。


「ぎりぎりセーフだったね。じゃーね」


安堂くんはそう言うと、ポケットに手を突っ込んで、こちらに背を向けた。

あたしは呆然とその背中を見つめていた。


そう、立ちすくむしかなかった。


(い、今のは―――…っ)


小林知枝里、17歳と1週間。

彼氏いない歴、17年目に突入。

ただいま記録更新中。


付けられたキスマークの痕は、不本意ながら……、2つほど。

キスした数は、多分ですが、10回未満。


ただし、元旦早々。

キスの回数、

…1回更新。