クスン、と鼻を鳴らして、うなだれた。

その瞬間、ギュッ、と耳を引っ張られる。


「バカ!」

「っ!!!」


バカ―→!って右耳から入って左耳から出ていくくらい、大声で言われた。


(いや、まったく。その通りで…)


昼休み、陽だまりの中にいるとはいっても、もうそろそろ寒さは限界だった。

でも場所を変えて、会える所もない。

安堂くんは、相変わらず彼氏にしたい男No.1に君臨しているし、あたしは冴えないしがない彼氏もいない女子高生だし。

屋上で会えるのは、ここが立ち入り禁止のスポットで、そこの鍵を何故か安堂くんが持っているからで。

屋上から一歩校舎に入ってしまえば、安堂くんとあたしはただのクラスメートになる。

……まぁ、そんなことより。


(そろそろ本気でヤバいよなぁ)


誕生日まで、クリスマスまで、3週間とちょっとしかない。

教室で、なべっちから嫌というほどノロケ話を聞いている。

なべっちも初めての彼氏。初めてのクリスマス。

そりゃあ、どんなクリスマスにすればいいかって口を開く度に言いたくなるのもよく分かる。

親友の恋を応援し隊のあたしとしては、自分の不運な境遇話よりも、その幸せノロケトークを聞いてあげることが大切な任務だった。


(でも、やっぱり羨ましい…)


それに。

今、目の前で、あたしと同じ中身のお弁当を食べてるこの男も。

クリスマスを恋人と過ごしたことのある(しかも3回も!)憎たらしい男だ。

どんなクリスマスを過ごせば、あんな年上美人教師を飽きさせないのか…聞けたならなべっちにいいアドバイスをしてやれる。

でも、それは出来ない。

今、このお人形みたいな、彫刻みたいな彼は、傷心中なのだ。

辛い時は抱き着いてくる、可愛い一面もある。

…その分普段は毒舌だけど。

たまにとんでもない悪さもするけど。

あたしにすがる時の安堂くんはめちゃくちゃ可愛い。


「……俺、小林の考えてること、手に取るように分かる気がする…」