「ベランダに閉め出された、ってまたいちゃもん付けられたら嫌だから」

「い、いちゃもんって…!それにもう、閉じ込められたりしないしっ」

「二回目、なければいいね。寒いんだから早く帰るよ」

「えっ、あ、ちょっと…!待って…っ」


安堂くんに鞄を投げられて、どうにかそれをキャッチした。


「電気消すよ?」

「あっ、待って…、あっ!!」


いいって言う前に消してくれる。

でも、すぐ傍であたしのことを待っててくれる。

ムッとしつつも、足早に安堂くんの隣に駆け寄った。


「ありがと…」

「――――3年。」

「――え?」


突然何か分からなくて、あたしはパチクリと瞬きした。


「3年。センセーと付き合ってた。さっき、その話、してたんじゃないの?」


暗闇に侵食された空間にポツリと落ちたその声は、何ともないって笑っていた。

でもそれが、本当はどうだか分からない。

この人は、隠れて泣く人だから。

教室ではひょうひょうと、何にも動じないって顔をしながら、別れ話のあと30分以上もその場から離れられずにいた人だから。


「そ、…そっか」


恋したことのないあたしは、気の利いた言葉なんて掛けられない。

ただ、この瞬間。

この場にいてあげることしか、出来ない。


「ま、待っててくれたお礼に150円までならおごってあげてもいーよって言おうと思ってたけど…、大奮発! 300円までだったら、いーよ」

「………小学生の遠足のおやつかよ」

「駄菓子だったら袋いっぱい買えるよ!?」

「だからガキのおやつかよ」


鼻でフンと笑っている。


……ただ、この瞬間。

あたしのバカな発言で、少しは笑顔になってくれたらいいな。


なんて。

何故だか切に、そう願った。