……、ひーっっ!!!


その一撃に、顔がトマトのように真っ赤になった。


「あはははははは…!!知枝里、サイコー!!! 玲美たちのあの顔、知枝里にも見せてあげたかったわぁ!!」


親友は、友の失態を大笑いしている。

そのせいで、授業が終わってから男子にはからかわれるは、他の女子からは嘲笑されるは。


「じゃ、あたしは今からデートだから~!頑張ってね?」


……先生から、罰としてプリントのコピーを言い付けられるは。


(もう散々だ…)


親友はこれから、楽しい楽しいデートだと言うのに。

あたしは悲しい悲しいコピーの罰…。

原稿を片手に、印刷室にたどり着いた。


「あ…っ」


するとそこには、先客がいた。

それがまさかの、


(美坂先生…っ)


細身のスーツ姿が板につき、スカートの後ろに短く入ったスリットがやけに色っぽい。

脚も細く、しなやかだ。

生足の学生とは違う、ストッキングの似合う脚。


(安堂くんのエロ…)


「あ、もうすぐ終わるから。ごめんね」


先生がこちらに気付いて、顔の前で小さく手を合わせた。

美人で綺麗なのに、先生は気取らない。

学校中の男子が先生に憧れてて、中には本気で告ってる人もいるという。

先生はそれを全部断ってたっていうけど、その裏には、ずっと安堂くんがいたんだ。

二人がどんな付き合いをしていたのか、あたしは知らない。

安堂くんと先生が付き合ってたのを知ったのだって、不運な事故の副賞で、たまたま知っただけ。

安堂くんは自分のことをほとんど喋らないし、先生とのことは二人の中の暗黙のタブーになっている。


そう思うと、この1ヶ月。

目まぐるしい程あたしの生活は変わったけれど、結局1ヶ月前と何も変わってはいない。

あたしは安堂くんのことを、何も知らない。


「…あ、あー…。先生が終わるまで、あたしもここで待たせてもらっていいですか?」


印刷室のドアを閉めて、そっと訊ねる。

先生はもちろん、笑顔で快諾してくれた。