「ご、ごめ…」


たった1ヶ月。

まだ1ヶ月しか経っていない。


「…べつに、小林に言われたって何とも思わない」


柔らかい髪を風にそよがせて、無表情な瞳がこちらを見据える。


「あんどうく…、」

「彼氏がいたこともない人に言われてもね。逆にそっちの方が可哀相」

「――!!!」


一瞬、その懐の広さに感動しそうになった。

しかしこの男は、こういう奴だ。

安堂くんは、要所要所でこんな意地悪を言う。


「あ~ん~ど~う~くんんんん~!?」


あたしは肩を怒らせて、安堂くんを睨んだ。

確かに確かに彼氏がいたことはないけども~~~~~……!


(―――ハッ……!!!)


睨んだところでハッとした。

彼氏はいたことがないのに、キスは経験した。

安堂くんにされてしまった。


「……なに?」

「や、な、なんでも…っ」


黙り込んだあたしに、安堂くんの興味なさげな視線が向く。

あんなことがあったのに、なべっちに彼氏が出来たことが衝撃過ぎて、よくもまぁぬけぬけと呼び出してしまった。

気持ち、数センチお尻をずらして安堂くんから遠ざかる。


(って視線が痛いんですけど~~~っ!!!)


目の横に手を置いてバリケード。


「小林?」

「……っ」


こうやって、簡単に手首を掴んでくる安堂くんに、やっぱり“慣れ”を感じずにはいられない。


「な、な、なんでしょう……っ」


掴まれた腕はそのままに、出来る限り顔を背けて聞き返す。

ああどうか、掴まれた手首からあたしの鼓動が伝わりませんように。

冬の空の、陽だまりの中、体温がぐんぐん上昇中。

ごくり、と喉を鳴らした、その時。


「そんなに、彼氏が欲しいの?」