(――嘉人くん、遅いなぁ…。)


街道がよく見渡せる喫茶店で彼を待ち続けて、早30分。

いつも携帯している読みかけの文庫本も、もう読み終えてしまって、カバンの中にしまってしまった。


何か追加で頼もうかな、とテーブルの脇に置いてあるメニュー表を手にした時だった。


『――お待たせ。』

「!」


影がかかり、顔を上がれば、そこには目出し帽を深くかぶった嘉人くん。


「…大丈夫だった?」

『うん、なんとか。…ありがとう、気を遣ってくれて。』


目の前の席に座る彼に、私は首を振って見せる。


「ううん。気にしなくていいよ。」


私の存在がバレなかったのなら、それでいい。


「これから、どこ行く?…――あ。」


まだ行先、決めてなかったね、と話しているとき、彼の紺色のカーディガンについていたボタンが取れかかっているのを見つけてしまう。