数十分後、特に彼女との会話もないまま――というか、彼女に心の内を言えないまま、無情にも彼女の家の近くまで来てしまった。

今昼、彼女を迎えに来た時と同じ場所に、車を寄せて駐車する。


『……』

「……」


車が停車しても尚、お互いに何も発さずに、小さな沈黙が車内に流れた。


このままだと、彼女は電話って言っていた通りに、明日合コンに参加するだろう。

そんなのダメだと、思っているのに、言葉が出てこない。

突然、俺から想いを告げられて、彼女は戸惑わないだろうか。

俺と交際することで、彼女を困らせたりしないだろうか。

彼女には幸せであって欲しいのに、俺の近くにいることで、彼女の幸せを歪ませてしまわないか――…


『……今日は、ありがとう。』


ポツリと、彼女が声を発した。

その表情はどこか切なげで、何か言いたげで、でもそれを必死に隠しているかのようで。


『楽しかった。神田さんにもお礼、言っておいてくれる?』

「……」


不意に彼女から投げかけられた視線に、俺は瞼を伏せてしまう。


『…じゃあ、またね。』


そう言って、彼女が助手席のドアノブに手を掛けたときだった。


「待って、」

『っ…!』


咄嗟に掴んでしまった彼女の右腕。

こちらを振り向いた彼女は至極驚いたような顔をしているにも関わらず、俺は脇目も振らずに口を開いた。


「もうちょっとだけ、時間ある?」