「ーー忘れられないわ」
私の目に写ったのは
小山課長と女の人が抱き合っている
バサバサ、と私の手から落ちたファイル
その音に小山課長は気がつき
彼女を引き離した
「桜庭っ、」
焦った顔をしていた
あんな顔を見るのは初めてだった
『ご、ご、ご、ごめんなさい。あ、あ、あ、あの、小山課長へファ、ファ、ファイルを届けにーー』
床に落ちたファイルを拾おうとしたら
何かが落ちた
『ここに…、置いておきます』
頭を下げ、会議室から出た
ほんの数秒、1分もない時間
何度も私を呼んでくれた小山課長
私は一度も小山課長へ
顔を向けることはしなかった
『……っ、…うっ…』
なんだ、
いるんじゃない…
本気じゃ、無かったんだよ
なんだ、
悩んで…損した