「昨日の事、忘れたわけじゃないよね。なのに、どうして…」

「昨日、俺はほのかちゃんに何ができるか、1日考えみたんだ」


渚くんは汗を拳で拭いながら、あたしのすぐ近くまで来て、目の前に立つ。



「でも……どんなに考えても、俺に出来る事は、1つしか思い付かなかった」


渚くんは、あたしに右手を差し出してきた。


いつか、保健室でもそんな風に手を差しのべてくれた。


「ほのかちゃんの心に近づきたい。俺に、傍にいさせて」

「っ……」


なんで?

あたしがどんな人間か、わかっててそれを言うの?

あぁ、なのに……涙が止まってくれない。


周りの人の声、車の音、風の音さえ遠くに感じる。

渚くんの声だけが、透き通って聞こえた。


「あたしといたら……渚くんまで不幸になるかも」

「俺は、ほのかちゃんと一緒にいられるなら、幸せだけどな」


そう言って渚くんはまたフワリと笑う。

あぁ、もう絶対に渚くんの花のような笑顔は見られないと思ったのに…。