恵美さんって何者……?!





「行こう」





いつの間にか隣にいた響也さんが背中を押してくる。








私の目をじっと見て微笑む瞳は優しげで、とてもじゃないけど反らせなかった。






ーー反らしたいのに反らせない。






やっぱり私、この人苦手だ。








「神田、だしてくれる?」





「かしこまりました」







恵美さんの一声で発車するリムジン。
運転手は神田さんと言うらしい。







「社長。そのお嬢様は?」






社長!?







その質問に恵美さんが答える。






「私の娘のさゆりちゃんよ」






実際まだ、娘じゃないですが…?





ってそれよりも。






「恵美さん、社長なんですか…?」






「あれ、知らなかった?」







まったくもって知りませんでした!






「あ、そうね!この前さゆりちゃん体調悪くなっちゃったものね!」






『今後についてのことも話してないわねー』と横にいる響也さんに聞く。







「そうだね。今話そうか。」






響也さんが瞳をこちらに向けると、真剣な表情でいった。







「春になったら一緒に暮らそう」







まぁ……再婚する以上そうなるだろうとは思ってた。






「さゆりちゃんは桜井家に引っ越してもらって…、あっ!学校は転校しなくていいよ」








「えっ…でも、遠いと送り迎えとか大変なんじゃ……」






「あ、そのへん全然大丈夫よ。寧ろさゆりちゃんちから学校行くより、うちんちから行った方が早いぐらいだから」






「もしかして、私の家と桜井家って近いんですか?」







「そのとおり」







てっきり地元離れて、転校でもするもんだと思ってた。









少し重荷が降りた気がする。








ーー悪口言われてばっかの学校生活だけど、そこそこ頭のいい学校だし…。小学の時より皆勉強に必死だから私のことほおっておいてくれる。







あんないい環境、他に無いよ。








「ところでさー、さゆりちゃん」








「はい……なんですか?」








「私の息子の人数、匠さんに聞いた?」








二人じゃないのかな?響也さんと、海里さん。








とりあえず頭を横に振る。








恵美さんは少し笑いながら







『14人よ』







はっきりと言った。







聞き間違い、ではない。







間違いなく14 人、と。







「……すごいですね……」







私はその14人と暮らす訳、か。







「ちなみに桜井優伊も僕らの兄弟だよ」






桜井 優伊……。なるほど、しつこいところが皆に似ているかも知れない。
 







「そうですか…」







「さゆりちゃん、驚かないのね。優ちゃんなんて驚きすぎて。顎、外れそうだったわよ」






どんだけ口開けたんだよ…。







それに桜井くんって恵美さんに『優ちゃん』って呼ばれてるんだ(笑)








思わずにやけそうになって口元を押さえる。








……あれ?私今、にやけそうになった…?








あり得ない。だって私は楽しいと感じることも、悲しいと感じることも。すべてーー






すべてなくしたーー。







だから、そう。私に愛する人はいない。







もう、誰かを好きになんてならない。







そう、決めたはず……







「……さゆりちゃん……?」







突然フリーズした私を心配そうに見つめる響也さん。









「…大丈夫です……」








向けられた視線をゆっくりと外した。








うん、そうだ。これが正しい。







なるべく話さず、目を合わさず。私は無口で無愛想な女の子。







それでいい。それで嫌われればいい。








なのに。








「「さゆりちゃん」」







どうして恵美さんは心配している顔をするの?








響也さんはなんでこんな私に優しく微笑むの?








皆、私の側からいなくなればいいのに。








私なんか見捨ててしまえばいいのに。