大好きな人ほど、私のそばから離れていく────。
「さゆり…」
突然声がして息を潜める。
お父さんの声だ。
「さゆり。そこでちゃんと聞いてて」
「……」
「お父さんはね……さゆりのことが大好きだよ…」
え…突然どうしたんだろう。
「だけどね…時々思う…さゆりはお父さんのこと好きなのかなって…」
そ、そんなのっ……。
「あのね、さゆり。お父さんは……。さゆりに人を好きになることを止めないで欲しいんだ…
人を好きになると…辛いことも苦しいこともたくさんあると思う
だけど、楽しいこと幸せもきっとあるんだ」
………そんなの知ってる。
私が一番分かってる。
だからこそ。人と関わらないことを選んだ。傷付かないために。
誰かを好きになると、誰かが必ず傷付くこともちゃんと知っている。
「お父さんは乗り越えられたよ。」
何を?
「ちゃんと人を好きになれたよ…」
「………」
「今度はさゆりの番だ。」
ドアの向こうで、父が微笑んだ気がした。