小鳥のさえずりと部屋を明るく照らす太陽の光で目を覚ました私は、さっきまで見ていた夢を思い出す。

いつもあの場面で目が覚めて、その続きが見れないんだよなぁ…。

私は小町 未來《こまち みく》。
田舎町に住む中学2年生。

得意教科は体育と家庭科。
苦手教科は数学と美術。

いわゆる『体育会系女子』である。


未來「…ウッ、頭痛い…」


あの夢から目覚めた朝は、いつもなにか鈍器で殴られたような激しい頭痛に襲われる。


わからない。あの夢はなんなの…?
あの扉の先には何があるの…。
それにあの優しい声…
どこかで聞いたことがある。
どこでって聞かれると言葉が詰まるけど、確かにどこかで。。


未來母「未來~!いい加減起きなさい遅刻するわよ~!」

未來「え?だってまだ6時3……は?!もう8時じゃん!?なんで起こしてくれないのさー!」


お母さんのバカ!!!

…懐かしい声。優しい言葉。大きな扉。不思議な夢。

知りたいこととか疑問なことはたくさんあるけど、今はそれどころじゃない!!

階段を駆け下りて手早く制服に着替え、長い髪をある程度クシでといてからポニーテールに結ぶ。

『朝ごはんいらない!』とお母さんに叫び、家を飛び出した。

今日は2月13日月曜日。

毎週月曜日は朝の集会があって、遅れた人は原稿用紙一枚分、反省文を書かされることになっている。

一度だけ書いたことあるから、それがどれだけ地獄のことなのか身を持って知ってる!!

もうあんな地獄味わいたくないわああ!!


未來「はよざいます!」


通りすがりの近所の人に一応挨拶しておく。


未來(なにやってんだろ私…)


家を出たのが8時すぎ。まぁ用意したから8時10分ってとこくらいだろう。
どれだけ急いでも学校までは20分はかかる。
朝の集会は8時25分には教室にかばんを置いた状態で体育館に座っていなければならない。

……無理だ。

まぁ何かの奇跡が起きて10分でついたとしよう。
その時点でもう8時20分。
そこから3階にある教室まで行って一番窓側の一番後ろの先にカバンをおいて教室を出て階段を下り、教室から200mほど離れてる体育館まで行って女子列の前から9番目の席に座る。
私はそんな動作を5分で済ませれる天才ではない。

どっかのだれかさんが『諦めたらそこで試合終了だ』とか言ってたけど、
人生には諦めも必要である。

うん。今回は仕方ない!

一人で納得してうなずき、呼吸を整え歩き出す。


さて…言い訳はどうしようか。

まさか『寝坊して最初は全力疾走したけど、人生には諦めも必要だから諦めて歩いたので遅れました』なんて言えるわけもないし。

うーん……

考えこんで目をつむりながら歩いていると、誰かとぶつかった。

ドンッ


未來「わっ、すみませ_____あれ、同じ制服…?」


見るとその男子は、同じ制服をまとっていた。

落ちたメガネを拾い、軽くパッパとゴミを払うと、私の方を向いて頭を下げた。

…??

釣られて私も下げたけど…なんだこれ。

無言の礼をする時間じゃないっての!


未來「あー、すみません。怪我とか無いですか」

?「あっ、だっ、大丈夫ですっ!」


何だこの少年。やけにアタフタしてるなー。

まっ、どうでもいいけど。

……ん??

彼の右手が不自然に左手の手のひらを抑えているのに気づく。


未來「ちょっと見して」


返事をする間も与えず、左手を手にとって血が出ていることに気付いた。

カーディガンの右ポケットから絆創膏の束を取り出して一枚ちぎり、痛まないようにそっと貼る。


ってか、なんで私が貼ってんだ。
…いや、自分でやったことか。


未來「はい、できた。ごめんね、じゃ。」

?「あ、あ、あのっ!!!」


もう!!遅刻だってのに!!!


未來「なに」


振り向きもせず、低めの声で尋ねる。


?「あ、その、迷惑だったらいいんですが…名前を教えて欲しくて。」


名前?なんの為に?
と、聞くのはやめた。


未來「小町。2年の小町未來。」

稜呀「僕は2年の時雨 稜呀《しぐれ りょうが》…です!」

未來「そ」


会うことはもうないと思うけど…


それから私は足早に学校へ向かい、案の定遅刻した反省文を書かされるハメになった。

ちなみに言い訳は、素直に『寝坊』と言っておいた。


稜呀「未來さん!!」

未來「は?あー、アンタか。偶然だね」

稜呀「またお会いできて嬉しいですっ」

未來「はは」