「この間、病院でサチに再会して凄く驚いたよ。驚き過ぎて、何から話したらいいのかわからなくなってしまった」



お父さんは手を握り締め、その手を見つめながら続けた。



「でも、サチに会えて凄く…凄く嬉しかった。ずっと会いたかったから」


「嘘っ」



“ずっと会いたかった”

その言葉に反射的に言い返すと、お父さんは声を強めた。



「嘘じゃないっ!」


「……じゃあなんで?会いたかったならなんで今まで会いに来てくれなかったの?九年間も」



すぐに会いに来れる距離にいたんだ。会いたいと思ってくれてたのなら、家に来れなくても学校の近くで待ち伏せするとか、会いに来る手立てはいくらでもあったはず。

なのに、九年間も放ったらかしで……会いたかったなんて言葉、信じられるわけがないじゃない。



「父さんな、ずっと入院してたんだ」



お父さんは、ふぅ、と息を吐くと、気を取り直してゆっくり話し始めた。



「家を出てからすぐ今の病院に移った。あの病院に移ったのは、近くにいればもしかしたらサチに会えるかもしれないってそう思ったからだ」


「そんな風に思うんだったら連れてってくれれば良かったのに…」


「父さんだって、本当は連れて行きたかった。あの家に…母さんの元にサチを置いていくなんて嫌だった。でも、父さんが連れて行っても、側にいてやれないから」


「どういうこと?」


「入院しなきゃいけないのがわかってたから。治療は長期戦になる。必然的に入院の期間も長くなる。だから、もしサチを連れて行ったとしても、すぐ母さんの所に戻るか施設に預けることになるのはわかりきったことだった。父さんには頼れる身寄りもいないから」