「神様の乗り物ですよ、喧嘩っておかしくないですか」

「だからこそ見たかったんだ、自分たちの縄張り争いを、人間に代理させている、怠惰な横暴さを」

「神様と、知りあいですか」

「神様とは、誰だ?」



それを今、訊いたんですよ。

きょとんと問い返してきた彼は、どうやら本気らしい。



「自分で言ったんでしょう」

「俺は神様なんて、言ってない」



そうだっけ。

じゃあ誰が“人間に代理させている”わけ?



「きみたちが神と呼ぶものだ」

「伸二さんたちは、なんて呼んでいるんですか」



突然伸二さんの声が、混線したみたいにノイズと混ざりあって、ガアガアピイピイと鳴いた。

私がびっくりしているのを見て、失敬、と口をつぐむ。



「今、近い言葉を探す」



検索結果を片っ端から読みあげるみたいに、伸二さんが次から次へと、単語を流れるように発した。

ぼそぼそと低く、あまりに速いので聞き取れない。

あるところまで来ると、ふつっと言葉をとめ、これかな、と頭の中を探るように、視線を落とす。



「摂理」



伸二さん、それはね。

逆らっても無駄、と私たちが考えるものです。


急に、きっぱりとしたあきらめのようなものが私を襲った。

別に不快じゃない。

どちらかというと心地いい、すべての権利の放棄。


伸二さんたちに、何かを変える力があるわけじゃないんだ。

彼らも何かしらの、抗えない流れの中で、動いている。



「摂理が喧嘩するんですか」

「似て非なるものがふたつあれば、争うだろう」



言いながら、摂理という単語の選択に自信がなくなったらしく、間違えたかな、と首をひねる。