ケータイ小説 野いちご

フレキシブル・ソウル

結婚してるわけでもないのにか。

そんなにその人のこと、好きなのか。



「仕事やめてまでって、すごい覚悟だね」

「噂が錯綜してて、よくわかんないんだけどね、訳ありっぽくもあるし、あるいは結婚準備とか? これちょうだい」



私のピーチティを、智弥子がひと口飲んだ。

ゆうべ遅くに用意した夕食の残りを、適当に詰めたお弁当を、お箸でさぐりながら。


誰だって、いろいろ事情がある。


妙にしみじみした気持ちで、そう考えた。



残り少ない学校生活かと思うと、授業にも身が入る。

わけがない。


苦手な物理はやっぱり退屈で、先生の目を盗んで携帯を開いた。

サンクスノベルズの更新は、ない。

始まってから数ヶ月、ほぼ毎日だった更新が、急に二日間とまったので、管理人を心配する声も見られる。


まあ、管理人だって、書く気分じゃないこともあれば、忙しい時だってあるだろう。

気長に待とう、と携帯をしまいかけて。

悠長だな、と自嘲した。





「あ」



帰り、ふとコンビニで手にとった夕刊で見つけた。

学校の最寄駅の名前。


昨日の夕方、32歳、会社員の男性が、包丁のような刃物で数か所を刺され、意識不明の重体。


これだ、絶対に。

あとは、殺人未遂容疑で県警が捜査中としか書いてない。


未遂。

おじさんが、考えを変えて中断したのなら、いいけれど。

もしかして、何か完遂できないアクシデントがあったり、実は相手が生きてたことを知らずに立ち去ってしまったんだとしたら。

それは、かわいそうな気がした。



『珍しいが、あっちゃんが電話くれるの』

「今日、これから予備校なんだけどさ」

『うん?』

「帰りがだいたい、7時半くらいになると思うんだ」

『ほやろな、大変やな』



あっちゃんは偉いな、ととんちんかんなことを言う林太郎に、どう育てるとこんな「いい子」ができあがるんだろう、と感心する。


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