まるで、僕も一緒に行くって言ってるみたいな、その言いかたが、善良で無邪気で、いかにも林太郎で。

ちょっと違う顔を見てみたくなった。



「林太郎さ、お父さんのことって、何か聞いてないの」

「え?」

「帰ってこない時、外で何してるのかとか、気にならないの?」



思いがけず林太郎は、さっと顔色を変えた。

えっ、と私は慌てた。

村長の夜遊びなんて、特に村の秘密でもない。

さすがに露骨な女性関係の噂はないし、政治手腕に免じて、誰もが見て見ぬふりをしているのが実情だ。

なのに林太郎は、緊張した声で。



「お父さんが、なんやの?」

「いや…なんでもない、最近見かけないなって」

「ああ、うん」



忙しいみたいや、と早口に言う。

目も合わさない、変な林太郎。


セミが網戸にぶつかる音がした。

ジッ、と断末魔のように一声鳴いて、気配は消えた。


どこからともなく、激しいあせりが湧いてきた。

消えるなら消えるでいいと思ってた。

特に将来の夢とかあるわけでもなく、失いたくないほど毎日が楽しいわけでもなく。


けど私はこの時、はじめてあせった。

どうしてだろう。

どうしてだろう。


急に黙った私に気がついたのか、林太郎が顔を上げて、気まずさを振り払うみたいに、ちょっと笑った。



「今日も暑くなりそうやね」



うん、と答えた時、笑えていたかどうか。



どうあがこうが。

私の命は、あと数日。