向こうにとってはいらない情報かもしれないけれど、これもひとつの出会いだと思い名乗ると、死神が足をとめて目を丸くした。

私をじろじろと上から下まで眺めて、なあんだ、とひとりで納得する。



「女だったのか」

「え?」



彼はつかつかと歩いてくると、やけに友好的な調子で右手を差し出した。



「探してたんだ、よろしく」



条件反射で、その手を握る。

思わず安心してしまうような、わずかに温かい乾いた手。



「よろしくって…」

「まあ、だいたい一週間から10日くらいの間かな。俺もそんなに腕の劣るほうじゃないから、安心していい」



はあ、と呆然とあいづちを打つ私を、気楽な声が元気づける。



「この年頃の子は珍しい。精一杯いい仕事をさせてもらう」

「…あの」

「“アノ”は、俺にはわからない」

「今の話は、こういう理解でいいですか。つまり私は、あと一週間かそこらで死ぬと」

「そのとおりだ、一緒に頑張ろう」

「あなたは本当に、死神なんですね」



彼は握った手にぎゅっと力を込めると、水臭いな、とにこっと笑った。



「伸二でいい」



駅のシンボルであるけやきの巨木から、蝉の声が一気に噴き出す。

何の変哲もない、7月のある酷暑日。


私は突然に、自分の寿命を知った。