不安で心臓が嫌な音を立てる。

菜摘さんが私の背中を摩ってくれるけど、体は冷えて凍り付いていくばかりだ。



数分後、処置室から出てきた哲二さんに駆け寄り「シュウは⁉︎」と尋ねる。



「過労だな。最近、重要な仕事を任せてもらえるようになって張り切ってたんだろう。そのせいで疲れが溜まったんだと思う。少し休めばすぐ良くなるよ」


「心臓の病気じゃないんですね?」


「ああ。そっちは大丈夫だ」



よ、良かった……本当に良かった。


張り詰めていたものが一気になくなって、へなへなと椅子に座り込んだ。



「シュウが呼んでる。行ってやりなさい」



私は安心しきっていて、この時の哲二さんの表情をよく見ていなかった。



処置室に入ると、シュウが点滴に繋がれたままベッドに横になっていた。

すぐに私に気付くと、相変わらず優しい笑顔で私の名を呼ぶ。



「シュウの馬鹿!本当に心配したんだからね」


「ごめん、悪かったって。でも大した事じゃない。ただの過労だから」


「哲二さんから聞いた。もうあんま無理しないでね?」


「わかったよ。ちょっと大きな仕事を任されて気を張ってた。今日はちゃんと休むから」



シュウが私の方へ手を伸ばす。

その手を両手で包むように握ると、「サチ、あったかい」と柔らかく微笑んだ。



「何か食べたいものある?」


「サチのポテトサラダが食べたい。マヨネーズたっぷり」


「ふふ。シュウはそればっかりなんだから。今日はたくさん食べてお風呂でゆっくり温まって寝ること!わかった?」


「はいはい、お母様」



クスクスと笑い合う。

哲二さんのいつもと変わりない様子とシュウの明るい笑顔に、私はすっかり騙されていたとは知らずに。


この時の私は、平穏な日々にすっかり安心しきっていたんだ。