ーーーざわざわ……ざわざわ……

外に出るなり聞こえて来るのは村の皆の不安がる声や泣くものの声、イガっている声……ここまで追い詰められている村人は初めて目にした。

心にずしっと重たい物が乗っかった気がした。
ーーーこれが魔神の恐怖……。

想像とは桁が違っていた。
ここまで怖がるものだとは。

「あ……ロディン」

聞こえた声に目を上げる。
その声の主が目の前に居た。

………かつての戦友コルマだ。

二年前に戦いから身を遠ざけ、ここハザベル村に住み着いた戦友である。
コルマは明るく周りに気を配ることの出来る優男。だが今の彼の笑顔には不安があるのがわかる。

気を配っているようだが、怖さは隠せないようだ。

俺とコルマ、かつての戦友達で戦っていたのはラスカール王国の北に居座るアゼラン帝国との小競り合いの時である。
この小競り合いは実に二年もかかっていたが、テルラ・センからの魔神侵攻により同盟を結び終えたのである。

当時戦友の一人を失った小競り合い。

それが憎くもあった。

ラスカール王国に小競り合いでの功績が称えられ、軍に入隊するよう進言されたが俺達四人はそれを断っていた。

それから俺とコルマはハザベル村に。
他二人は別に旅をしに行ったのだ。

それからと言うもの、俺が未だ関わっているのはコルマのみだ。

「コルマ……この騒ぎは?」

俺の問いにコルマの表情が厳しくなる。

「魔神がサラベラ村を殲滅したらしい」
「なんだと!?」
「俺も詳しくは分からん。ただ殲滅は本当らしい」
「バ、バカな。サラベラ村には五重壁が居るだろ!」

五重壁……ラスカール王国とは別にサラベラ村で結成された五人の騎士。
腕のたつ者五人が壁のように立ちはだかる様から呼ばれている。

そんな五重壁が魔神ごときにやられるはずがない。

「五重壁はサラベラ村の防衛に向かったと聞いたが、消息までは分からんよ」

苛立つ様子を見せながらコルマはそう口にし、続いて口を開く。

「ただ、無傷では済むことは先ずないだろ。村を殲滅されたのは事実なんだ」

それは確かに。
村の防衛に向かうも殲滅となれば無傷で済むことはない。
ましてや負けたわけだ。
生きてるかどうかも怪しいところだ。

「それはそうだ。でも、生きてる可能性は無いとは言えまい」

俺の言葉にコルマの表情が一層厳しくなる。
「高望みにも程があるぞ。ロディン」
「ぐっ……」

コルマの言うことは最もだ。
だが、ラスカール王国の少佐、リベランカル殿が目をつけた程の実力者がやられるものなのか。

「なら、この目で確かめてやるよ」
「おい!ロディン!」

俺はコルマの制止を振り切りサラベラ村へと続く門へと走って向かう。

ーーー確かめるんだ……俺の目で!

そうまでして五重壁の安否を確認したがる俺の行為をコルマは分からないだろう。
それもそうだ。

ーーー過去に助けられたからこそ。

過去……俺は彼ら五重壁に助けられたことがある。小さい頃にだが。それでも、彼らが居なければ今の俺はここに居ない。

「だから……だからこそ!」

自分で確かめたいのだ!
門番はこの混乱の為か不在なため、門の前へと立ち、手で開けようとする。

そのときである。
俺の目の前で悪夢が広がる。