「サチ」



さっきまで酔いしれていた声で、不意に名前を呼ばれた。

振り向くと、穏やかな笑顔で私に手を差し伸べるシュウがいて。



「行こう」



私はその手を取った。

それまでムカついて仕方がなかった相手なのに迷わなかった。

何故だかわからない。
でも、この人をもう少し知りたいと思ったのは確かだ。


しっかりと繋がれた手と手。
それを嬉しそうに見て、ふっ、と笑うシュウ。


私達は駆け出した。
二人の間を抜ける風が心地良い。


ただ手を引かれるがまま、たまに振り返るシュウと目を合わせ微笑み合う。

今までシュウに感じていた嫌悪感が嘘のように楽しくて、凄くドキドキした。


流れる景色。
いつも見てたそれが、今は違う物に見える。

こんな感覚、初めてだった。



「え……学校…?」



やがて、私が通う高校に着くとフェンスをよじ登って校庭に入った。


「ついて来て」と小声で言うシュウに従って素直について行くと、シュウは一階の教室の窓をガタガタと何度か揺らした。



「ここの鍵、壊れてんだ」



そう言って、してやったりと悪戯な笑顔を浮かべるシュウにトクンと胸が鳴った。