「あんたなんて…産まなきゃ、良かった」



母親は持っていたリサちゃん人形を憎しみがこもった目で睨み付けながら震える声で言った。



「あんたさえ産まれなければ…あんたさえ…」



母親の苦しそうな声に、胸がギュッと軋む。


わかってはいたことだし、何度か言われたことがある言葉だけど。
それでも、聞くたびに胸が痛む。

改めて、私は不必要な子供なんだと思い知らされる。


目の前にモヤが掛かって立っているのがやっとだ。



「出て行け……出て行けー‼︎」



そう叫ぶと、母親は思いっきりリサちゃん人形を私に向かって投げつけた。


立っているのがやっとな足に力を込めて、リサちゃん人形と鞄を拾い走る。

母親から逃げるように。


外はもう暗い。私の心が闇で包まれてるからなのか、闇夜だ。

走っても走っても闇は、どこまでもついてくる。


私は一体何処に逃げたらいい?
逃げ場なんてないのだろうか。



ふと、金髪男の言葉を思い出す。


この空が抜けるような綺麗な群青色?

ホント笑わせる。
そんな風に感じるのは何の悩みもない、苦しいことも悲しいことも辛いことも経験したことのない、能天気な人だけだ。


この空は何処に行っても真っ暗闇。
一生、晴れることなんてない。