『何だよ、リーダー知ってたのかよ~』

『どうせ、この小説が気に入っただけだろ。コイツ、気に入ったらそればっかだからな。』

『まぁ、確かに。リーダー言えてる。』


当の本人である俺を置いて、勝手に4人で結論を出すほど、理不尽なことはない。

けれども、それ以上の追及はない方向へと話が進んでいるところを見て、内心安堵した自分がいた。

まだ、彼女のことは誰にも知られたくない。

そんな独占欲に似たような気持ちが、徐々に俺の中で膨らんでいたことに、この時の俺は気付くはずもない。


『よっちゃん、飯行こうぜー!』

「あっ?ああ…。」


すんなりと俺の元に返ってきた本。

浩介からその本を返されて、手に取った瞬間、彼女の顔を思い出してしまう辺り、俺はかなり重症だ。

こんなこと、今まではなかったんだけどな…

これまでの恋愛経験からしても、物一つで一人の人を想起させることなんてなかっただけに、戸惑ってしまう俺。


『なぁ、そんなにその本が気に入ったなら、俺にも読ませろよ。』

「は?」


飯だ飯だ、と騒ぐ哲也の横で、そう俺に耳打ちした浩介に、俺はザワリと嫌な予感を覚えた。

俺が何か言う前に、ニヤリと意味深な笑顔を浮かべつつ離れていく浩介。

ヤベ……アイツ、そういうことだけは鋭いんだったっけな…


『よっちゃん!はーやーく!』

「っ、分かった分かった!今行く!」


浩介だけには誤魔化しきれなかったと悟るも、痺れを切らした哲也に腕を掴まれた俺は、引き摺られるように楽屋を後にしたのだった。