次の日は緊張感を持っていただけあってちゃんと1時間早く起きたのだが、なにせ新しいリズムの初日だ。
そう簡単にうまく事が運ぶ訳もなく、結局最後はダッシュ。
「じゃあ麻実、いってらっしゃい。いい子にして待っててな。」
と保育所の先生に頭を下げながら軽く麻実の背中を押す。
でも麻実はびくともしない。
そのまま回れ右をしてヤダヤダと俺に泣きついてきた。
昨日の明るい声に油断しきっていたが、やはり初めての場所は怖かったようだ。
俺は麻実の高さまで腰を落とし、抱きしめながら頭を撫でた。
「ちゃんと夜7:30には帰ってくるからな。ゆびきりしよ、な?」
嫌々麻実はうんと頷き、ゆびきりをした。
それから朝礼ギリギリに会社に着いたが、子どものことが気になって、しかも妹のことが気になって手が止まるなんて初めてだった。
事情を詳しく説明するのも面倒で、今日はどうしたのかと尋ねてくる同僚や後輩は適当にあしらっていた。
麻実とゆびきりした小指がなんだか温かく思えた。
約束に間に合うよう、夜7:00にタイムカードを切って俺は車を飛ばした。
息を切らせて教室へ行くと、すでに麻実は最後の1人だった。
「麻実ちゃん、とってもいい子でしたよ。お絵かきも上手だし、お友だちもできました。」
先生の言葉に俺は胸をなでおろす。
すっかり慣れた様子で麻実はさよならと先生に手を振る。
「偉かったな、麻実。何の絵描いたんだ?」
帰りの車で話しかける。
うふふと露骨に照れたように麻実は内緒のサイン。
なんだか、ませている。
夕食を済ませお風呂へ入ると気疲れしたのか、麻実はすぐに眠りに落ちた。
テーブルの下に潜り込むように落ちている画用紙。
先生の字で「家族」とテーマが書かれている。
所詮4歳がクレヨンで描いたものだと馬鹿にしていたが、案外特徴をとらえている。
ママ、パパ、あさみの文字。
そして…。
おにいちゃん。
今まで麻実に全く関心も持たなかった俺を麻実はちゃんと家族として描いてくれたのだと思うと、情けなくも泣きたくなった。
俺もちゃんと、麻実を、妹を、守らないと。
そう気を引き締めた。