「はーい、そこ、イチャイチャ禁止!そういうのは抗争が終わってからにして下さーい」


「そうだそうだ!俺、恥ずかし過ぎて見てらんねぇし!」


膨れっ面で文句言いまくりの彼方と、赤面しながら怒っている陽。


そんな二人を「まぁまぁ」、と宥めている大人な壱さん。


煌はと言えば、偉そうにソファーにふんぞり返って煙草を吹かしていた。


この光景を見て、もうすぐ抗争へ向かうとは誰も思わないだろう。


この二人に緊張感というものは無いのだろうか。



「陽くん、貴音達が来るまでババ抜きでもするかー」


「えー二人でー?しかもこのトランプで?また笑っちゃうじゃんか」



絶対無いな。


緊張感という言葉すら忘れてしまってるんじゃと疑いたくなる程陽気な二人。


大丈夫かな……今日。


そう本気で心配した時だった。


「ん?」


突然震え出した携帯電話。


テーブルの上に置いてある携帯に手を伸ばし、画面に視線を落とすと、そこに表示されていたのは貴兄の名前。


「もしもし?貴兄?」


時間から察するに、きっと今からそっちに向かうという知らせの電話だと思う。


そう思い込んで押した受話ボタン。


けれど、貴兄からの電話はそんな良いものではなかった。



「凛音!今すぐ十夜に代われ!遊大が奴等に攫われた!」



それは、予想だにしていなかった“始まりの合図”。


誰もが驚愕した、始まりの合図だった。