「お前みたいな出来損ないの馬鹿は痛い目を見せないとわかんねぇんだよな」



母親はふんっと鼻を鳴らすと、咥えていた煙草を持ち直す。


やけに燃えてるように見える煙草の先がゆっくりと近付いてくる。
ピンク色のルージュがベッタリと着いた唇の端がニッと上がった。


ヤ、ヤラレル……っ‼︎‼︎


無意識だった。
気付いたら、私は母親の肩を押しのけていて、持っていた学校の鞄を持ってトイレに逃げ込んでいた。


直様鍵を掛けてドアに背を預ける。



「おい‼︎‼︎出てこいよっ‼︎」



ドンドンとドアを思いっきり叩く母親。
鍵を掛けてるから開くはずはないけど、必死に背中でドアが開かないように抑える。


やがて、「クソがっ‼︎」と一発蹴りを入れた母親は、乱暴に音を立てて家を出て行った。


一気に静まり返った家。
だけど、いつアイツが家に帰って来るかわからない。


私は学校の鞄に入れていた宝物の人形を出すと、それを胸にギュッと抱いた。



「もぉ…やだよ……」



怖くて、涙が止まらなくて。
私は暫くそこから動けなかった。