そっと、自分の下腹部に手を這わせる。

 自分のお腹に赤ちゃんがいるって、どんな感じなんだろう。
 自分の体に、男の人を受け入れるって、どんな感じなんだろう。

 私は初潮が中学二年生と、少し遅だけ遅かった。
 回りがもうなっているのに自分がなっていないことに焦りを感じていたけれど、そんなものがいつか来るってことが怖かった。

 下着を染める赤い色。
 腹部の鈍い痛み。

 お母さんに生理が来たと言ったときに、おめでとうって言われたけれど、なにがめでたいのかまったく理解できなかった。
 酷く煩わしくて、不快で、大人の女性になんかにならなくていいと思った。

 どうして私は女なんかに生まれてきてしまったんだろう。

 高校生になって、毎月の生理にもなれた頃、また別の性の問題が浮上してくる。

 ちょっぴりエッチな会話。
 ティーンズラブの雑誌。
 恋人と過ごした夜。
 初体験の話。
 友達の噂話。

 セックスにあったのは、軽い好奇心と嫌悪感。

 彼氏いない歴が自分の年齢と同じ私にとって、セックスはどこかファンタジーだった。
 だからこそ好奇心もあったし、そうした話や漫画も恥ずかしいながらも楽しめた。
 凄くドキドキする。

 でも、それがリアルになったら嫌悪感しかなかった。
 可愛いイラストとかだから、楽しめる。
 誰かが持ってきた、お兄ちゃんのとかいうAVはパッケージを見ただけで吐き気がした。

 あんな行為で子供が出来るなんて。
 あんな行為で自分が生まれてきたなんて。
 急に自分という存在が汚らわしく思えた。

 お母さんは、お父さんと。
 お姉ちゃんは、お義兄さんと。

 思わず想像してしまいそうになる自分に嫌悪する。
 最悪だ。
 汚らわしい。

 千奈美も啓子も、もちろん……

 私はまだ、体を重ねて愛を確かめ合う素晴らしさなんてわからない。
 あれはただ、汚らしい肉欲を満たすだけの行為としか思えない。
 加虐的で被虐的で、愛だなんて思えない。


「はぁ……」


 重たい空気を胸から吐き出し、うつ伏せから寝返りを打って仰向けになる。

 私にも彼氏が出来たら、そういう気持ちがわかるようになるんだろうか。
 彼氏にあんなことをされたいとか、したいとか思ったりするんだろうか。

 嫌だ。

 それが、今の私の一番の素直な気持ちだった。


「千奈美……」


 それでも、私は千奈美の友達だ。

 千奈美がどういう気持ちでセックスしたのかなんて知らないけれど、それでも千奈美を汚いとは思わなかった。

 千奈美が夏樹くんのことを本当に好きだったのはよく知っているし、いつも嬉しそうに夏樹くんのことを話してくれていた。

 千奈美が夏樹くんに告白したときとか、千奈美を学校まで迎えに来たときとか、何度か夏樹くんには会っている。

 望んでの妊娠ではなかったかもしれない。
 それでも、大好きな人との間に授かった赤ちゃん。

 まだ病院には行ってはいないみたいだし、もしかしたら検査薬が間違っていましたで終わってしまう話かもしれない。
 そんな可能性、きっと少ないだろうけど。

 まだ赤ちゃんの存在を知らない夏樹くんは、知ったらどうするんだろう。

 いい想像も悪い想像もつく。
 でも、なにが本当に良くて悪いのかなんてわからない。

 啓子は、どうやって中絶という選択を選んだんだろう。
 千奈美自身は、どうしたいんだろう。

 グルグルと考えすぎて、天井まで回りだしそう。

 千奈美は今どうしているんだろう。

 心配だよ。

 私は千奈美のことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていた。