―― 事の発端は、一週間前のある夜の事。


私はある事でムシャクシャしていて一人、ヤケ酒を呑んでいた。

酔いたくて入った居酒屋なのに、全く酔えない。日本酒をコップに四杯ほど呑んでいるのに、なぜだろう。普段はこの位でベロベロになれるのに、どんどん意識が冴えて行く感覚さえ覚える。

こんなんじゃ気分転換にもならないので、私は残りのお酒を飲み干し、帰ろうと立ち上がった。

「キャッ!」

後ろから、短い女性の叫び声と、何かが落ちる音が聞こえる。振り向くと、手を押さえて一人の女性が立っていた。

何の確認もせずに立ち上がった為に、後ろを通りかかった彼女にイスがぶつかってしまったらしい。その拍子に、彼女の手からバッグが落ちてしまったみたいだ。

「ご、ごめんなさい!」

私は急いでバッグを拾い上げる。

「後ろを見ていなかったもので!お怪我ありませんか!?」

私はバッグに付いた土埃を叩き落とし、それを手渡した。