-優音 side-



「ホラ、こっち来いよ」


「……っ、分かったから離せ!」



しくじった。

俺とした事が反対側から歩いて来ていた人間に気付かなかったとは。


お陰で奴等に捕まっちまったじゃねぇか。


けど、此処に凛音が居なかった事は不幸中の幸いだったと言える。


凛音が此処に居ればきっと二人共捕まっていただろう。




「そんなに強く引っ張らなくても逃げねぇよ!」


凛音に捕まってしまった事を知らせる為、わざと大声で叫んだ。


これだけ大きい声を出したんだ。流石に電話中の凛音にも届いただろう。


凛音が気付いたらこっちのモンだ。

俺が捕まっても鳳皇と貴兄が助けに来てくれる。


助けを待つとかスッゲェ格好悪ぃけど、状況が状況だ。仕方ねぇ。


それに、きっとこの中には“D”の幹部がいる。


正直、俺だけじゃ分が悪い。

勝ち目があるのなら未だしも、無いのに無駄な抵抗をする気なんてサラサラない。そんな馬鹿じゃねぇし。


どうせ貴兄達が来てくれるんだ。大人しく待ってれば無傷で居られる。


まぁ、コイツ等に“俺”だとバレなければの話だけど。




「──まさかこんな所にアンタがいるなんてな」


「………」


「凛音サン、“此処”に鳳皇を連れて来られちゃ困るんだよね」


危機感の無い軽い口調でそう言ったスパイ男が、愉快そうに口端を引き上げる。



……プッ、コイツ馬鹿だ。全く気付いてねぇ。


目の前に来ても俺が“優音”だと気付かない馬鹿な男。


きっとコイツ等は凛音に双子の弟がいる事を知らないのだろう。


だから俺が“凛音”だと信じきっているんだ。


……ホント、知らなかった事に感謝するよ。

知ってたら今頃ボコられてるかもしれねぇからな。