わかっていた。
 初めて、遥人を寝かしつけたあの晩から。

 あの人の心に不眠症の原因となった深い闇があることは。

 公子が不安そうに自分を見つめてくる。

 那智の方が、安心させるために、公子の肩を叩く番だった。

 電話の内容は聞こえてはいないのだろうが、那智の顔つきから、異様に切迫した空気は伝わってきていることだろう。

『人の信念を変えるのは、たやすいことではないよ、那智。

 捨て鉢に生きてきた僕の意識を変えさせるのに、君のお母さんが苦労したように。

 でも、やってみたら?

 君はあの人の子供なんだから』

 そう洋人は、本当の父親のように、教え諭すように言ってくる。

 年下のくせに、と苦笑しながらも、
「ありがとう」
と言って、電話を切った。