「洋人」

 うん? と洋人はどうでもよさそうにこちらを見る。

「……那智を頼む」

 洋人は、やれやれという顔で溜息をつき、
「自分が見てればいいのに。
 めんどくさい人だね、ほんとに」
と肩をすくめて見せた。

 洋人が耳にかけようとしたヘッドフォンを見、
「ほんとは、なにも流れてないんだろ。
 あまり人の話を聞いてないように見せて、相手を油断させるためか」
と言うと、

「違うよ。
 思索にふけるためだよ。

 たまにはなにか流れてるよ」
と笑って見せる。

 邪気のなさそうな笑顔だ。

 女はみんなこれに騙されるんだな、と思った。

「じゃあね、桜田さん。
 せいぜいお仕事がんばって」
と洋人は去って行った。