「ずっと私が好きだって知ってたくせに、修学旅行から当て付けみたいに仲良くしやがって!そんなに私が嫌い?」


「嫌ってるのはお前だろう!それに、アタシは別に、アイツとは……」


話の論点はおそらく、燭の事へと移っている。あの感じたとあの子はずっと燭が好きだったのだろう。目立つ前からずっと。


行動を共にしていた里佳子は恋バナの一つも聞いていただろうに、燭と幼なじみ、いや、それ以上の結び付きだというのは話を聞くに隠していたように思える。


それが最近、里佳子と燭は修学旅行をきっかけに徐々に距離を近くに戻しつつある。あの子のイライラが積もるのも仕方がない。


でも、それは燭の意思でしょう?里佳子に嫉妬したところで、例えば里佳子が燭から離れたって、彼があの子に恋心を抱く可能性が上がる訳でも無いのに。


「あ、の……教室入れないし、成、止めませんか?えっと……な、る?」


この場の収拾を付ける事が出来るのは、このクラス中に成しかいない。そう思い、成のブレザーの背中を引っ張る。


しかし、隣にいる成の表情に思わず動きが固まった。戦慄さえ覚え、感覚が麻痺してしまう。


成の表情はそれこそ『無』なのだ。喜びも、怒りも、希望も、悲しみも全部存在しない、それこそ神様の面持ち。


あんなに温かな、純真な心の持ち主の成は、こんな顔をする事もあるのだ。


彼は拾う神だと思っていたが、間違いなく、彼は意思を持たぬ時は無慈悲に捨てる神ともなり得る。


この瞬間、この出来事に対して嶋山成という一人の神様は、関わることを放棄して、希望を与える事を拒否していた。