コツン……ーー



桜の間近で聞こえたその靴音。そこで漸く、由里子の上に乗っている桜の目に相手の靴が映った。


桜の足よりも大きな黒の革靴。


それを見て桜はホッと胸を撫で下ろすと、再び必死に声をあげる。


「た……………け……て」


『助けて』と叫んでいるつもりなのだが、痺れる喉からは、未だこれだけしか言葉が出ないらしい。


ただ、桜は自分が生きているという事を相手に伝えようとしたのだから、それに対しては問題はないわけだ。


ぐったりと身体を動かさずにここに俯せで倒れていた場合、そのまま死んでいると判断され放置という可能性もないわけではない。


そうなってしまえば、誰にも気付いて貰えないまま死ぬまでずっとこの場に閉じ込められてしまうかもしれない。


そんな自分にとって不利な状況になる事を桜は避けたかったのだ。


桜の声に気付いたのか、目の前の足が膝を曲げる。


そして、大きくてゴツゴツした左手が桜の顎に添えられ、クイッと上を向かされた。