『申し訳ありません!
花見へは我々三人で向かいますので、御心配なさらずに!』


何かを言おうとする時夢を遮り、祇園が時継へと頭を下げると、時継は少しだけ安堵の表情を浮かべて頷いた。


『祇園、お前にはいつも世話ばかりをかけるな』

『いえ!好きでやっております故…』


時継の言葉に祇園は再度頭を下げた後、障子戸を静かに閉めると時夢の手を引きながら廊下を歩き出した。




『トージ。いつもあの男は父上と、一体何の話をしてんのや』


時夢の問いに祇園は何も反応せずに無言で前を歩いて行く。


時夢は、これまでも数えきれない程この質問を祇園にしてきたが、その度に答えを濁されていた。

『無視すなや!』


まだ苛立ちが収まらない時夢が、祇園の脹ら脛を蹴り上げた。


『ユメ』


突然、振り向いた祇園が時夢を見つめる。


『な…何やねん…』


時夢は身構え素早く自分の頭を手で庇った。


幼き頃から悪戯に興じてばかりの姉弟は、幾度となく祇園の拳骨に泣かされてきた。


当然、先ほど祇園に飛び掛かった時道は強烈な拳骨を浴び、廊下で踞っている最中だ。


『約束する、時期が来たら全てを話す。
なので、今は父殿と儂の言うことを聞いてくれ。
頼む…』


時夢の予想とは反し、今回の祇園は拳を振るわず、時夢の華奢で小さな体を抱きしめたのだった。


『狡いわ…
そんな顔されたら何も言えんくなるやんか…』


時夢は拗ねた表情でそうこぼすと、祇園の温もりに身を委ねた―――――………。