「確かにアレはやりづれぇな。っていうか女に教えるか?普通」


「凛音自身、格闘技に興味津々だったからな。優音に教えるってなった時にアイツも教えろって駄々こねたんだよ」


「格闘技ねぇ……。そう言えばムサイ好きだったな」


「なんだ。よく知ってるじゃねぇか」


「ウチでも下の奴等とプロレスしてたからな」


「……マジかよ。ったくアイツは」


未だ遊んでいる凛音を見ながら苦笑する両幹部達。




「そろそろ止めるか」


「だな。あのままだと新入りみんな潰されちまう。……オイ、桐谷、お前あんな強ぇ女でもいいのかよ?」


「………」


「……十夜?」


嵐の問い掛けに無反応な十夜。


目を向ける事もせず、ただボーッと一点だけを見つめている十夜の肩を貴音が揺する。


「オイ、桐谷」

「……あぁ、悪ぃ。聞いてなかった」


貴音に揺らされ、漸く気が付いた十夜。


明らかにオカシイ十夜の様子に全員が眉を寄せ、顔を顰めた。



「どうした?」


「……いや、何でもねぇ」


十夜はそう言うと全員の視線を振り切り、階段へと歩き出した。


階段を下りていく十夜をただ黙って見ている両幹部達。


その表情は固く冴えない。


当然だろう。


すれ違った十夜からは何も感じ取れなかったのだから。


完全なる“無”。


それは自分の感情だけではなく、他人の感情すらも受け入れないと、そう言っているように感じた。




「……行くぞ」


そんな十夜に貴音は何か言う訳でもなく、平然と歩き出した。


下りていく両総長を見て静かに歩き出す幹部達。


その表情は当然だが固く、複雑な感情が見え隠れしていた。



-客観的視点 end-