「特定の彼女は作らないようにしてるんだ」

「お兄様、意味がわかりませんけど」

 女の敵だな、と揺らすと、うわっ、と無様にハンモックから落ちそうになり、しがみつく。

 ハードカバーの本が落ちたので、それはさすがに拾ってやった。

 本が傷ついたら可哀相だからだ、本が。

「はい」
と渡すと、彰人は、

「そもそも全部、お前らのせいなんだぞ」
と恨みがましげにこちらを見、言ってくる。

「中学生の頃、お前、拓海とベッタリだったから、今、拓海を好きかどうかはともかくとして、拓海以外の奴と付き合うつもりはないんだと思ってた。

 なのに、いざ、迫られたら、あんな態度で。

 まるで、鬼でも見るみたいに、拓海に非難の目を向けてたな」

 彰人はまるで、我が身を責められたかのように言う。

「あんなの見ちゃったら、怖いだろうが。

 女ってのは、予測つかないな、と思って。

 おかげで、ちょっといいなと思った女には、かえって手が出せなくなっちゃったじゃないか」

「いや……それ、よそで遊んでくる理由には、ならないと思うんだけど」