『で、どうするんだい旦那。まさか、小便するのを眺めて終わりってわけじゃないんだろ?』


だいぶ日も暮れてすっかり薄暗くなった竹林の中を忍び足で歩く二人の男が囁き声で会話を交わしている。


『当然だろ全く。
俺が先に味見するから、その間お前さんが暴れないように抑えとくんだよ』


『分かってるって。
へへ…旦那を先に見つけた俺は運が良いぜ。
あの女…無茶苦茶にしてやるよ…』


髭男は昼間の居酒屋での強気な瞳を思い出し、舌舐めずりをする。


『因みに、アイツは橘の女だ。
事を終えた後に道場に告げ口されたら不味い…。
だから、分かってるね…?』


矢加部が冷徹な瞳を髭男に向ける。


『橘?あの名門の?
本当かよ。
ああ、しゃぶりつくしたら殺してやるよ。
ゆっくりと…苦しめてな』

髭男がそう言うのと同時に、風が竹を揺らして騒がした。


(おや?)
矢加部は視線の先に何かを見つけて立ち止まった。


『いたよ』

矢加部の小声で髭男も止まり視線を凝らすと、先の岩陰に羽織姿の誰かが此方に背中を向けてしゃがんでいるように見えた。


薄暗くハッキリは確認できないが、ユメが着ていた派手な色の羽織に間違いなかった。


『ユメちゃん、遅いから見に来ちゃったよ。随分と溜まってたんだねぇ』


ニヤニヤ笑う矢加部が声をかけながら近寄る。
髭男も興奮した表情で矢加部の後に続く。


驚いたユメは小さな悲鳴を上げ、浴衣の裾をはだけたままみっともない姿で立ち上がる………筈…
だと、二人の男は信じて疑わなかった。