『ところで、矢加部はんは何をしに京へ?
ただの見物か?』


道を外れた河原で一休みする中、ユメは居酒屋では食べ損ねた串団子を頬張りながら矢加部へと声をかけた。


『この京で一儲けしようかと思ってね。
栄えぐあいを下見に来たってとこだよ。
戦の時代が終わったこの國を銭で天下を統一するのが俺の夢さね』


『たいそうなこっちゃ…』


串を口にくわえながらそう呟いたユメは、おもむろに立ち上がると腰の刀の柄へと指を添えた。


―――ヒュゥ!


虚空を斬り裂く音と同時に、刀身が夕陽に煌めく。

―――ジャリ…


草履が擦れる音に乗り、二の太刀が放たれる。


羽織をはためかせしなる身体はやけに色っぽく、絹のように流れる黒髪が夕暮れに染められ揺らめく。


矢加部は瞬きも忘れてその妖艶な光景に見とれていた。


『美しいな…。
まるで舞踊のようだ。
どこかの剣術道場にでも通っているのかい?』


動きを止めたユメへと矢加部が問いかける。


『ワテは"橘道場"の四代目当主や』


あっけらかんと言い放ったユメを、矢加部はポカンとした表情で見つめた。