『揉め事は勘弁してくだせぇ…』


不意に、しわがれた声が野武士たちの背後から聞こえてくる。


見ると、年老いた店主が串団子を乗せた平器を両手で持って立っていた。


『おー待ってたで!』


野武士たちの巨体の隙間から目を覗かせながら天女が嬉しそうに目を輝かせた。


『爺ぃ!すっこんでろ!!』

『今からこの女に男の怖さってやつを教えてやるんだからよ!』


『へへ…その体にみっちりとな…』


野武士たちは天女の腕を引き立たせると、外へ連れ出そうとした。




(おいおい…。
何で俺を見る…)



ふと、天女の視線が握られた自分の手首から、ゆっくりと横の矢加部の方へと移り、ピタリと止まったのだ。


その吸い込まれそうな不思議な色をした瞳は、矢加部を捕らえて放さない。


(まったく…俺がそんな腕っぷしが強そうに見えるかってんだ…。
まあ、仕方ねぇか…)


矢加部は商で鍛えた撫で肩を擦った後、おもむろに席を立った。


『まあまあ、お前ぇらやめねぇか、みっともない』

矢加部は野武士たちに声をかけながら歩み寄る。


『これだから田舎者は困るんだ。
都での振る舞い方を知らねぇってんだから』


矢加部は天女と野武士を繋いでいる手を力任せにほどくと、天女を自分の方へと軽く引き寄せた。


そして、懐から黒い巾着袋を取り出すと野武士の胸元へ放った。


『それで好きなだけ酒を飲め。
娘さんには、祭りでも案内してもらおうかね』


『ちょっ…おい…!』


矢加部は野武士たちの戸惑う声を無視し、天女の背中に手を添え外へと誘ったのだった。




(いやはや、これは…
上手くいったねぇ…)