(あれは…)


矢加部は、居酒屋に団子が置いてあるということよりも、その天女が座台の隣に立て掛けた"ソレ"に息を飲んだ。


『おい嬢ちゃん、それは刀か?』


野武士の中の一人が立ち上がり、天女へと近寄り声をかける。


『ん?そやけど?
刀が珍しいんか?
アンタも持ってるやんか』


天女は野武士が腰に差している刀を指差しながら、子供のような笑みを浮かべた。


『京都じゃ、女が侍の真似事をするのが流行ってんのか?』


空かさず他の二人も天女の席へとやって来る。


三人の野武士に囲まれているにも関わらず、天女は全く動じる様子を見せない。
それどころか、その瞳からは余裕の色さえ感じとれた。


『刀よりもっと良いもん握らせてやろうか?』


野武士の一人が天女へと顔を近付けて下卑た言葉を浴びせた、その時だった


―――プッ…


『うわっ…!何しやがるテメェ!!』


その男の頬に天女が唾を吐きかけたのだ。


『この糞アマ!!』


激高した男が天女の細い手首を掴み上に引っ張った。


『京の女の唾は貴重やで?京土産に持って帰り』


相変わらず余裕の表情でそう言ってのける天女に、野武士たちは三人がかりで迫った。