女将さんは、ボクらをしげしげと眺めながら口を開いた。

「新田様、突然の質問お許しください。もしかして、新田様のお父様は新田公平様じゃ御座いませんが?」

突然、父の名前が女将さんの口から飛び出して、ボクは正直ふったまげた。

「えぇ確かに父は新田公平ですが」

ボクの言葉に、女将さんは一瞬だったが、目を泳がせた。

「へぇ、女将さんと公平ちゃんが知り合いだったの?もしかして、ロマンスがあったりして。まぁこんな偶然もご縁てやつじゃない?」

ひとみさんは、少しからかい口調で言った。
女将さんは少し困った表情を浮かべ、ぎこちない笑みを浮かべた。

「もう、20年近くお会いはしてませんが、昔の知り合いでしたので」

「へぇ、でもよく駿平君から公平ちゃんに結びついたわねぇ」

ボクも疑問に感じたことを、ひとみさんは口にしていた。
女将さんは、複雑な表情を浮かべ口を開いた。

「えぇ、新田様のお顔が若い頃のお父様によく似ていらっしゃったので、つい」


「あぁ、それ言えてるわ。背格好も顔も似てるわ、確かに」

ひとみさんは納得顔でボクを見た。

「それはさておいて、新田様、これからお食事の準備をいたしますので、温泉にでも入られたらいかがでしょうか?」

女将さんは再び屈託のない笑顔を浮かべ、そう言った。

「温泉!いいわねぇ。露天風呂もあるのかしら?」

嬉しそうな表情で、ひとみさんは女将さんに訊いた。

「えぇ、海の見える展望露天風呂がございます」

女将さんの言葉に、ひとみさんは歓喜の声を上げた。

「まぁ、すてき、さっそく入っちゃおう」