などと、ボンヤリと考えていると、台所の方からひとみさんの悲鳴が聞こえた。
彼女の悲鳴に続き、食器が砕ける音が聞こえ、ボクは反射的に立ち上がった。

「ひとみさん、どうしました?」

台所に入り、ボクは彼女に声をかけた。

ひとみさんは…………泣いていた。

その大きな瞳に涙を湛え、その頬を伝わる一筋の涙が光っていた。
彼女はボクを認めると、なにも言わず、ボクの首にすがりついた。
ひとみさんの体は小刻みに震えている。

「ひ、ひとみさん、ど、どうしました?」

ボクの裏返った声に彼女は顔を上げた。
その瞳からはやはり涙が零れている。

「ご、ご、ゴキブリが出たのぅ………」

いつも豪快に高笑いする彼女から想像もつかない、小さく怯えた声を彼女は出した。

「はぁ?ゴキブリですか?なんだぁ、そんなことですか。心配して損した」

ボクはすがりつく彼女を離して思わずニヤケてしまった。

「しゅ、駿平君、わ、私、ダメなの、ご、ゴキブリ。お願いだから退治して。お願いっ!」

彼女はそう言いながら再びボクにすがりついてきた。

「わかりましたよ。わかりましたから、そんなくっつかないでください。で、ヤツはどこに行ったんですか?」

ボクの声にひとみさんは震えながら冷蔵庫の方を指差した。