「……秘密」
「は?ちょ、秘密って何!?」
「秘密は秘密だろ」
「そういう意味じゃなくて!」
引き寄せた筈の身体はいとも簡単に引き戻されて強制的に歩かされる。
はぐらかそうとしているのは言葉だけではないとすぐに悟った。
……そんなに聞かれたくない事なの?
一度治まった筈の不安が、またじわじわと湧き上がってくる。
「……そんな顔すんな。本当に何もねぇから」
あからさまに落ち込んだあたしを見て十夜が立ち止まった。
と同時に大きな手がふわりと頭に置かれて。
優しく撫でるその手にチラリと窺うように顔を上げると、穏やかに光る漆黒の瞳と目が合った。
「……ホントに何もない?」
「ない」
「ホントのホントに?」
「しつこい」
「いたっ!」
だから何でいつも頬っぺた抓るの!?
伸びちゃうじゃん!
あたしの顔が余程面白いのか、十夜は右頬をつねったまま愉しそうに笑う。
「うぅ……」
その笑顔を見たら怒る気が失せるのは何故だろうか。
それはきっと、十夜の事が大好きだからだ。
傍で笑ってくれる事が嬉しくて。
笑ってくれるだけで心が満たされる。
だから、怒る気なんてすぐに吹っ飛んじゃうんだ。
「ククッ。間抜け面」
まぁ、それも一瞬だけだけど。
「十夜!!」
「ホラ、行くぞ」
怒るあたしを横目で見ながらうっすらと笑みを浮かべて再びあたしの手を引く十夜。
全く相手にされていないのが余計に腹が立つ。
これが惚れた弱みとでも言うのだろうが。
十夜にはいつまで経っても勝てないような気がする。
「……不貞腐れてんな。バーカ」
「……っ」
ホラ。やっぱり勝てない。
「不貞腐れてないよ!」
……そんな顔で笑わないでよね、馬鹿。