「顔?」
「顔」
と拓海が繰り返した。

「……見てない」

「阿呆なのか、お前は」

「いいじゃないのよーっ。
 なんで顔が見えなきゃいけないのよっ。

 顔も手も足も、身体の部位のひとつよ。

 何処を好きになったっていいじゃないっ。

 あんた、D組の相原さんの脚が好きだって言ってたじゃないのっ」

「いつの話をしてんだ、お前はっ」

 あのな、花音、と顔を近づけ、拓海が言った。

「顔が見えないとな。
 そいつが、男か女か、ジジイかババアかわかんないからだよっ」
と頬を引っ張られる。

「いたたたっ」
と花音は、その手を払い、

「わかるわよ。
 あれはきっと、私より少し上の男の人よっ」
と主張する。

「妄想か」