誰だ笑ってる奴は、と勢いよく振り返ると、


「………へ?」


なんと、笑っていたのは中田で。


大笑いとかではないけど、小さく肩を震わせて笑っていた。


それは何かを企んでいるような笑いでもなく、馬鹿にしているような笑いでもない。


正真正銘、純粋な笑みだった。




「中田?」


「お前はそのままでいろ」


「え?」

 
「これからも変わらずそのままでいろ」


「中田……」



初めて見た中田の穏やかな微笑みに目を見開く。


けど、それも一瞬で。


その後つられるように笑みを返した。




「行け」


「……中田はどうすんの?」


「俺はまだする事がある」



する事?

あぁ、そういうこと。


ちらりと横目で後方を見る中田に察しがついた。


中田の後方には獅鷹のやられた男達が転がっている。きっとその後始末だろう。



「じゃあ、あたし達は行くね」


「あぁ」


そう返事をした時にはもう、中田はあたしを見てはいなかった。


あたし達に背を向け、仲間達の元へとゆっくりと歩いていく。


「………」


あたしは少しの間、中田の後ろ姿から目が離せなかった。



もう、中田と関わる事はないんだろうな……。


中田を見つめながら、心の中でそう小さく呟く。




──半年も続いた闘いの幕が、今、静かに下ろされた。