すると車掌さんは、『乗れ』と言うように、手で合図してきたのだ。


「あ……いえ、あたしは……」


慌てて左右に首を振る。


その時だった。


蝶がヒラリと舞って電車の中へと吸い込まれていったのだ。


「あ、待って!」


咄嗟に足が動いていた。


蝶を追いかけて、電車の中へと足を踏み入れる。


電車の中に入ったとたん、あたしは足を止めた。


白色の通路以外が、すべて黒で塗りつぶされたような車内に、唖然としてしまう。


椅子も、手すりも、すべてが黒いのだ。


「こんな電車初めて……」


そう呟き、つり革に触れる。


つり革はヒヤリと冷たくて、思わず身を震わせた。


そして椅子に座ってみたとき、開いていたドアが閉められたのだ。


ハッと気が付けば、さっきまでホームにいた人たちもみんな同じ車両に乗っているのがわかった。


自分1人でこの電車に乗ったのではない事がわかり、ひとまずホッと胸をなで下ろした。


あの蝶はどこへ行ったんだろう?


確かにこの中へ入って行ったのに……。


しかし、どこを見回してみても蝶の姿はない。


奇妙な出来事に首を傾げていると、真っ黒な電車はゆっくりと動き始めたのだった。